肺高血圧症雑記
備忘録兼,参考資料として記録しておきます.
肺高血圧症って何
詳しくは各自,文献なりwebなりをあたってください.簡単に述べると,人間の体には大きく分けて4つの動脈・静脈があるうち,心臓から肺に血液を送るための血管「肺動脈」の血圧が高いものを指します[1]. おそらく読者のほとんどの方が目にしたことのある血圧は,心臓と全身をつなぐ血管の圧を指しますので実際に自身の肺動脈圧をご存知の方はあまりいないかもしれません. 肺動脈圧を測定するには,足の付け根あるいは首にある動脈に穿刺してカテーテルを心臓まで通して直接測定する必要があります(記事執筆時点). 本来,運動や日常活動によって若干の変動はするものの安静時には肺動脈圧は10mmHg以下が正常値です.一方,肺高血圧症と診断される人の多くは安静時でも25mmHg以上になっており,進行度によってはさらに高くなります.この値が35mmHgを超えてくると,35mmHg未満の患者に対し有意に死亡率が高いといった報告がなされています[2].
国内人口はおよそ3000人(平成26年時点)で,私が発症(発見)した平成11年度と比べるとおよそ9倍と単調増加をしています.単純に症例が増え診断材料が増加したことで発見数が増えただけかもしれませんが. 男女比は1:2以上と女性患者が圧倒的に多く,また40,50代と比較的歳を重ねてからの発症が多くなっています.(平均年齢53歳). 症状が進むと,内部では心臓の右室肥大や,肺動脈の脆化(硬化)が起き,外部から観測可能な症状としては息切れや喀血,浮腫・失神などが挙げられ進行度によって死亡もあります. 後述するように最近は新薬も多々開発されてきていますが,昔は有効薬自体存在せず,IPAH/HPAHの場合,[3]には”1年生存率、3年生存率、5年生存率が各々67.9%、40.2%、38.1%”とありますので,発症者は戦々恐々と日々を過ごしていたことでしょう.知らんけど. そのため,薬のない時代に発症し20年以上経過した今もなお社会活動を営む男子(私)は割合貴重な研究材料となります.
上述の通り予後不良(進行性・死亡)な疾患として知られています.そのため日本では指定難病(86)に指定されており,比較的小さい負担で治療を受けることが可能です.とはいえ心身への負担は相当なものでしょう.知らんけど
一方,今年3/9に国立循環器病研究センターは,肺動脈性肺高血圧症(PAH)の重症化メカニズムをラットを用いた実験で解明したとプレスリリースがありました[4,5]. 今後画期的な薬が出ると良いですね.
歴史と治療法
肺高血圧症の発見は1891年,ドイツが最初と伝えられています[6].当時はカテーテル検査などありませんが,検体の心臓の右室肥大及び肺動脈の拡張・硬化が発見の手がかりとなりました. なお,カテーテルの心臓までの挿入には1926年に初めて成功しています.この時は専用器具等ありませんので,腕を切開してそこから尿道カテーテルを挿入しています.その後,1940年代に今の右心カテーテルを使った血圧・心拍量の検査手法が確立されました.これはノーベル賞を受賞しています.私に一番身近な賞かもしれません.
そして現在,様々な薬が開発・認可され,治療法にも選択の幅が出てきています.現に,私の周りの患者は皆成人後それも最近発症していますが,誰もフローランなぞ注射していませんし内服薬も相性によって変更するといった運用をしています.
平成24年の資料でやや古いのですが,[7]から画像を下に掲載します.
これまで(いつの話やねん),肺血管に選択的に作用するプロスタサイクリン経路の治療薬が使われていましたが,今は
- プロスタサイクリン経路
- エンドセリン経路(国内で発見された)
- NO(一酸化窒素)経路
の3種類から作用する薬がそれぞれ開発されており,この3種のいずれかあるいは組み合わせて投与することで効果を高める内科治療が一般的となっています.
NO経路のもの(ダダラフィル,シルデナフィル)は,血液拡張物質サイクリックGMPを分解する酵素PDE5の働きを阻害することで,肺動脈圧を下げる効果があります.
エンドセリン経路のものは,物質エンドセリンがもつ血管収縮作用及び細胞分裂促進作用を妨げることで排血管を拡張する作用を持ちます.
プロスタサイクリン経路のものは,エポプロステノールは血管拡張及び血液凝固を妨げることで肺動脈圧を低下させます.24時間持続静法や吸入法が取られています.
私の場合
私は8歳で発症した後,13歳から当時の新薬(今は古株)フローランの24時間静注を開始しました.上に挙げた図では最も重症患者にとられる方法ですが,当時はこの薬しかありませんでした.その後,右心カテーテル検査を間欠的に実施,検査結果に合わせて増量を繰り返しますが,いろいろあって2019/10に心不全と診断されました. それを受けオプスミット,これにダダラフィルを処方されました.しかしダダラフィルが覿面に効き,副作用も激しかったため通常の半分量で止まっています.
そしていろいろあって(論文書けるレベルなので端折ります)現在は,10年以上付き合ってきたフローランを逓減するとともにウプトラビを逓増し完全内服への切り替え治療を進めています. ウプトラビもフローラン同様プロスタサイクリン経路です. これは,1日2回,1.6mg/回が服用上限ですので,2週間に0.2mgずつ増量する計画でいます.尤も,0.4mgまで増量した現在ですでに頭痛が出てきていますのでペースダウンあるいは中止する可能性もあります.
以上,備忘録兼記録でした.おしまい
参考資料
- [1] http://himeji.jrc.or.jp/category/diagnosis/naika/kanzo/pdf/20170914.pdf
- [2] 肺動脈性肺高血圧症の患者数|PAHとは?|肺動脈性肺高血圧症 情報サイト PAH.jp
- [3] www.nanbyou.or.jp
- [4] 心不全につながる難病「肺高血圧症」の重症化メカニズムを解明~既存治療薬に抵抗性の重症肺高血圧症に新しい治療の可能性~ | プレスリリース | 広報活動 | 国立循環器病研究センター
[5] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6351340/pdf/ERJ-01887-2018.pdf
- [7] http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/119/119-4/itoi.pdf