wvogel日記

自分用の技術備忘録が多めです.

私とどらえもんとひみつ道具

我が家にはドラえもんのぬいぐるみが大小問わずそれなりの数ある.今はもういない友達にもらったものもあれば,ストレス下の私が鉛筆で目に斜め線を描き込んだせいでずっと怒った表情のドラえもんもいる.

それはさておき,私には姪がいる.2歳9ヶ月になろうかという聡明な若人である. 彼女のヒーローはジャムおじさんプリキュアで,まだ一度もドラえもん作品を観たことはないが,我が家に遊びにくる度に沢山のドラえもんと遊んでいるため,漫画やアニメを見たことはなくとも既に知っている.無自覚のうちに旧知の仲となった彼女とドラえもんを見て,さて自分の場合はどうだったか.これを機に記しておくことにする.

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姪っ子とよく遊んでいるドラえもん
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最近組み立てたドラえもんプラモデル

どらえもん

私はドラえもんフリークではないし,特別にこれが好きというわけでもない.それでもドラえもんは私の日常の1部である. 特に大長編との付き合いは長い. 鉄人兵団の無人店で楽しそうに買い物をする彼らも,怪盗ドラパン謎の挑戦状の「ちょべりば~!」や「通り抜けフープ!...LLサイズ」も,雲の王国の「パルパル皆を頼んだ」の一連のシーンも,眼に耳に残ってふとした時に思い出す.

そもそも私は幼少期,人と触れ合うことがなかった.こども病院にいたためである.親も面会時間は限られ,エレベーターホールと病棟を阻む扉に貼られた笑顔のききとららのイラストがとても無機質に見えた.片道1時間強の道,月に何度かは姉や妹も来てくれたが扉を超えることは出来ず,ききとららの隙間を縫ったガラス越しに手を重ねたりして遊んでいた(時に扉を強く叩きすぎて怒られた). 体調の良い時はエレベータホールに出られることもあったが,姉とゴーリキーやゴーストを通信ケーブル越しに交換する程度の時間しか与えられなかったし,基本的に絶飲絶食状態だったためか,頭にはいくつもの円形脱毛が起きていたと聞いている.

頻繁に入っていたICUは尚更であろう.親の面会時間は更に限られ,私は起き上がることも出来ない.そんな状況下で,世界と私を繋いでいたのはドラえもんだった. 親はよく,今は亡きVHSに録画したり,どこかのビデオ屋(多分TSUTAYA)でレンタルしたドラえもん映画を持ってきてくれた.起き上がれないので,ビデオのセットは親が来る時だけである(自分の娯楽のために看護師さんを煩わせるのは幼心に申し訳なくて出来なかった). ICUで見た日本創世記はなぜか記憶に焼き付いているし,VHSの日本誕生は,放送中に流れた速報情報が画面上部に出る場所も覚えている(リニアモーターカーごっこのび太が振り落とされた後辺り).海底鬼岩城は,テープが擦り切れてほぼ砂嵐になっても記憶を頼りに”観ていた”.今思うとVHSには過酷なことをした.

インプットがドラえもんしかないので,当然アウトプットもドラえもんしかない.大長編ドラえもんの漫画を真似て,適当にコマを割って漫画を描いたり,アイロンビーズひみつ道具を作ったりした(写真).およそ20年ぶりに引っ張り出した今でも全てのひみつ道具の名前を覚えていた.皆さんはいくつわかるだろうか. 部品一つ一つをアイロンビーズで作り,細い針金でインテグレーションしたタイムマシンはかなりの力作だったが,おそらくタイムトンネルに入りどこかに流れていってしまった.

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アイロンビーズひみつ道具

ひみつ道具

ジャイアン達がドラえもんの出す道具は役に立たないと呆れるシーンをよく見るが,ひみつ道具はだからこそ美しく,広く愛されるのだと思う.そうでなければ,22世紀の未来で普及している筈がない.夢たしかめ機のような,何の役にも立たないのにそれなりに値が張りそうなメカに始まり,10円を要求してくる転ばし屋,的中率70%のたずねびとステッキ,塗りすぎると暑く(寒く)なりすぎるあべこべクリーム.22世紀でも最新の技術テキオー灯も24時間で効き目が切れるが,24時間というのがまた良い.有限の時間がわくわくを高める要素となる.この点,あらためてF先生の偉大さを感じる. そして数ある道具の中で当時欲しかったものの一つが重力ペンキだ.これがあればいつでも病院を抜け出すことができるし,地球の重力に従って歩いている人々を驚かせることもできる.

21世紀のひみつ道具

昔入院中に流れていたテレビで,実現されたひみつ道具を紹介するような趣旨の番組を観た記憶がある.山びこ山や空気クレヨン,タケコプター(これは1人乗りヘリコプターだったので無理があった)などが紹介されていた記憶があるが,会社が全くわからない.情報があれば教えていただきたい.

これを観た時,初めてドラえもんは現実になるのかもしれないと思った. F先生も言っている,”SFとはすこしふしぎ”であると.すこしふしぎなだけなら,そんな未来はすぐ来るんじゃないのか,作れるのではないか.私の中の科学の原点はドラえもんであり,数々のひみつ道具達である.

さいごに

私が幼少期を過ごした20世紀末に比べテクノロジーはめざましい進歩を遂げた. FAXや固定電話は鳴りを潜め,その数十倍以上ものデータを個人間でやり取りする時代である.身に着ける電子機器は多くのセンサを搭載し,宇宙ではドラえもんのスパイ衛星さながら,国家以外の企業・団体が独自の衛星を運用する. ”普通”に生活する分には,もうこの世界には真新しいことはなくて,重箱の隅を突く様な研究ばかりしているかのように見えるかもしれない.

確か大魔境でドラえもんが「海でも山でも,およそ全て探し尽くされている.この世に秘境はもう残っていない」というようなことをのび太に告げるシーンがあった.

ところが新種生物の報告は尽きないし,人類が月面に降りたのだってまだ一度きり.人間は地球の核にたどり着いたことは一度もない.一方,絶滅生物は増え続け,数多くの民族言語も知られぬままに葬られようとしている.あらゆる分野に未開拓技術・領域が残されている.

自分のなかに培うひみつ道具とともに,まだ見ぬ知識の扉を叩く. ドラえもんと戯れる姪っ子を見ながら,子供たちがそんな楽しい日々を過ごせることを祈って筆をおく.