wvogel日記

自分用の技術備忘録が多めです.

IUT理論:備忘録

先日,京大の望月教授が提唱したIUT理論の論文が8年越しにacceptedされ,ABC予想についての証明が正しいと話題になった.

最初私は,ABC予想を解いたのだと興奮したものの,よくよく調べると,ABCについて取り組んだだけではなく,IUT理論(Inter-universe Teichmüller theory)の構築をする上で解かれたと知りさらに衝撃を受けた.

私は数学の専門家でもなんでもないので,流石に膨大な量の原著をあたることはできないが,初心者にも雰囲気をつかめるよう書かれた書籍があったので一夜賭けて読んだ.本記事はその備忘録・及び関連論文を自分用にまとめたものである.
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ABC予想

abc-tripleについて,次式を満たすような自然数の組は高々有限個しか存在しない(であろう).
rad(abc)^{1+ε} < c
注1. abc-triple ... 自然数の組(a,b,c)についてc = a+b, a < b, a,bは互いに素
注2. rad n ... 根基.互いに異なる素因数の積

IUT理論

誤解を恐れず一言で言うならば,
IUT理論は正則構造の破壊された複数の宇宙を用意し,
それぞれの宇宙間で計算された情報を対称性を介してやり取りする.
この時,対称性のやりとりだけでは正確に元の情報を復元することはできないのでひずみが生じるが,このひずみの量を定量的に評価できるようにすることがIUT理論の骨である.

対称性を使った情報のやりとりでは,対称性の制約が厳しくなるほど,復元される情報の精度も高くなり,宇宙間のやり取りで生じるひずみ量も小さくなる.このような対称性をもつものとして,遠アーベルなものの代表である楕円曲線と関係の深いテータ関数を採用している.ちなみに遠アーベルとは,可換な性質な者からより遠い性質というもので,上で述べたように対称性の条件が厳しいことに相当します.このあたりには群論も絡んでくるので,定性的にはわりとすんなり理解できるでしょう.
同一の事象に対して,複数の解釈を持つ群を得ることが可能であり(書籍では正方形を例にしている),このことから,群を使えば,対称性の粒度は違えど複数の群(=異なる解釈によって得られた群)を往来できる世界が構築できたり,入れ子構造を形成できることがわかる.IUT理論ではこれを積極的に利用し,最終的に複数の世界間の関係を関係式に落とし込む.

こういった対称性や群による復元はガロアの時代から進められてきたが,IUT理論では複数の宇宙を用意して正則条件が敗れた状態で,ひずみを許容しながら(最終的にはこのひずみが非常に小さいことを示す)情報を行き来させて関係式を得る.
書籍には終わりの方に簡単な数式があり,それを読めば不等号式が得られるまでの雰囲気をつかむことが出来る.

この,ひずみを定量的に評価できるようになった,というのがIUT理論のすごいところだと思います.そのための手法として,宇宙際を作り出してしまうところも,アラケロフ幾何にあるような周到な準備を重ねたところも,私には想像もできない苦労と知恵があったのだろうと思います.


あと,全然関係ないですが,対称性って数学の政界でも物理の世界でも非常に強力な性質なのですね...
最近,32次元でのゲージ対称性について知ったばかりなので,数学と物理の間のつながりが感じられて個人的に感動しました.

テータ関数

基本的な形は次式で与えられるが,これとは別に楕円テータ関数もある.
\theta(z,\tau) := \Sigma^\infty_{n=-\infty} \exp^{\pi i n^2r + 2\pi inz}
(wikipedia, ”テータ関数”より)
テータ関数は,多くの対称性と強固に関係しているらしいのですが,調べると様々な対称性を持つ形に変形できるので,このテータ関数の作り方も工夫の一つだったのだと思います.

ホッジ・アラケロフ幾何

標数0の非特異な楕円曲線の普遍拡大における次数d以下の多項式関数空間から、d等分点でのd^2次元関数空間への自然な同型射が存在する」を定理として証明した.